この記事の内容
ITシステムにおけるネットワークの位置づけと重要性について
インターネットってどういった仕組みなのか?
ITシステムでインターネットを使う課題は?
インターネットの遅延品質に対する対処方法は?
もくじ
ITシステムにおけるネットワークの位置づけと重要性について
これまで、ビジネスパーソンが理解すべきITの基礎知識(概要編)(クラウドサービス編)ということで、できるだけビジネスパーソンにとって、小難しい技術の話ではなく、IT知識の必要性をご説明してきましたが、今回はネットワークについて解説します。
まず、ITシステムの中で、ネットワークがどのような位置づけにあるか見てみましょう。改めてご説明すると、あるシステムを使うにあたり、大きく3つの要素があります。それは以下の通りです。
- クライアント(つまりユーザのPCです)
- ネットワーク(今回のテーマです)
- サーバ(各種機能を提供するシステムそのものです)
サーバについては、前回のクラウドサービス編で、クラウドサービスを使うことで、パフォーマンスや拡張性の面で、大きなメリットがあるとお伝えしました。今回は、もう一つの重要な要素であるネットワークがテーマとなります。
また、(概要編)でもお伝えしましたが、企業の ITシステムには、社内システムと社外システムがあります。社内システムは、社内のスタッフが使う、会計、販売管理、ファイルサーバなどのシステムです。一方社外システムとは、Webサイトやオンライン販売など、外部のユーザに提供するITシステムです。
この2つで少しネットワークの使い方は違いますのでご説明します。
社内システムへのアクセス
社内システムの特徴は、社外の人からはアクセスされないように通信を保護しないといけないということです。もちろん社内システムの中でも、インターネットに公開して、IDとパスワードの認証で対応しているシステムもありますが、一旦ここでは割愛します。
社内システム向けネットワークには、次の2つのパターンがあります。
社内システム向けネットワーク
- 専用線を使うパターン
- インターネットVPNを使うパターン
1. 専用回線を使うパターン
専用回線は、特定の通信会社が提供する、お客様向けの専用ネットワークです。品質やサポートのレベルは高いですが、一般的には高額です。特に海外となるとさらに高額となります。
一般的には、大規模な拠点間通信や、重要な拠点間通信は専用回線を使われることが多いように見受けられます。
2. インターネットVPNを使うパターン
専用回線が一般的には高コストであるため、大量に拠点を持つ小売業や、海外に子会社がある会社などは、インターネットを活用して社内システムにアクセスさせるケースがあります。
ただ、インターネットにシステムを公開すると、社外の人にアクセスされてしまう危険性が高まりますので、“VPN (Virtual Private Network)" という技術を使って、インターネット回線を使って、仮想的にその企業専用のネットワークを作ることが可能です。
各拠点には、VPN機器というインターネット通信を暗号化するための機器が必要ですが、一般的にはファイアウォールがその役割を果たします。
社外システムへのアクセス
一方、社外システムですが、こちらはそもそもWebサイトやオンライン販売のシステムなど、インターネットに公開するべきシステムですので、ユーザは全てインターネット経由でアクセスしてきます。
インターネットってどういった仕組みなのか?
このように見てみると、今や企業の ITシステムにとって、インターネット回線がかなり重要な要素であることが分かります。では、インターネット回線とは一体どういった仕組みでしょうか? 実はビジネスパーソンにとっては、インターネットの利用は当たり前すぎて、その仕組みはよくわからないということはないでしょうか?
インターネットを利用するために、皆さん個人でも会社でもISP(インターネットサービスプロバイダ)と契約します。
その裏では、ISPは様々な別のISPと網の目のように接続されていて、最終的に皆さんの通信は目的の宛先に到達します。(正確にいうと1つのISPが複数のネットワーク(ASという)を持っているので、AS同士が接続されていますが、ここでは小難しいことは割愛して ISPとします)
では、例えば通信がどのルートを選択するかということは、どう決定されているのでしょうか? それはデータを送信する側のISPの意向と、受信する側のISPの意向によって変わってきます。また、その後もずっと同じルートで一定ということでもありません。
一般的にISPは、接続性の確保のために、複数のISPと接続していて、そのISP同士の接続は、時にはお金を払って接続させてもらうこともあれば(トランジットと呼ぶ)、お互い合意して無料で接続されていること(ピアと呼ぶ)もあります。この話はあまりにも複雑なので深入りはしませんが、つまりこういった大人の事情で宛先にデータが届くルートが決まっているということだけご理解ください。
もう一つインターネットで重要な要素は距離です。データ通信というのは距離によって遅延品質は決まってきますので、例えば、日本から香港と、日本からロンドンでは全く遅延品質が違います。つまり物理的に遠い相手と通信する際は、どうしてもレスポンスが落ちるということです。
ですので、できるだけ物理的に近いルートを選ぶことが、通信の品質を高めるということになります。
では、ISPが必ず距離が一番近いルートを選んでいるかというと、そうとは限りません。インターネットという世界では、データが相手に届けば成功というのが基本の発想なので、例え距離の遠いルートを選択しても、通信が成立すればそれは成功となります。このあたりは次の事例でご説明いたします。
ITシステムでインターネットを使う課題は?
先述のインターネットにまつわる問題は、特に海外と日本間で通信する際に発生することがあります。
以下は、実際にある日系企業の香港の拠点と日本間の通信の問題です。このようなケースは各国で当たり前のように発生しています。
香港のISPは、日本のISPと通信する際に、コストなど大人の事情で、なんとロンドンのISPに回してしまいました。
こうなると、先ほどお伝えした距離遅延の影響をもろに受けてしまいますので、メールなどの通信は体感的に問題ないですが、もっと遅延にシビアなアプリケーションになると、かなり体感的に遅さを感じますし、場合によっては使い物にならない、ということになります。
ですので、ビジネスパーソンとして理解しておいた方がいいことは、インターネットのルートや遅延品質をコントロールするのは非常に難しいということです。
仮に先ほどの例で、香港~日本間のルートについて、ISPに文句を言って、近いルートを選択される場合でも、メインのルートに障害が発生すればまた遠いルートが選択されることになります。ですので、やはり、インターネットのルートや遅延品質をずっと一定にコントロールすることは大変難しいということになります。
インターネットの遅延品質に対する対処方法は?
インターネットの構造と課題を解説いたしましたが、では、どういった対策があるのでしょうか? さらっとご説明いたします。
インターネットの遅延に対する対策
- 遅延に強いアプリケーションを使う
- 遅延に弱いアプリケーションサーバはできるだけ近くに設置する
- アクセス先のサーバとできるだけ遅延が少ないISPを現地で選択する
- CDN(コンテンツデリバリネットワーク)を活用する
- WAN高速化装置を使う
1. 遅延に強いアプリケーションを使う
先述の通り、インターネットのルートや遅延の品質をコントロールすることは大変難しいため、アプリケーション側で多少の遅延が発生しても使えるような構造になっていればベストです。
少なくとも、社内システムでも社外システムでも、そのアプリケーションがどのくらいの遅延なら使い物になるかは、きちんと把握してテストしておく必要があります。
そうしないと、先述の通り、ISPの障害でルートが変わってしまった際に、そのアプリケーションが使いものにならないような事態になりかねません。
2. 遅延に弱いアプリケーションサーバはできるだけ近くに設置する
どうしても遅延に弱いアプリケーションや、また、ファイルサーバのアクセスなどは遅延に大変弱いので、アクセス元の近くにサーバを設置する方法が有効です。先の例で言えば、香港のファイルサーバは香港に設置するということです。
もちろん、サーバを各地に分散すると、いろいろと管理上の問題が発生しますので、ここは関係者で相談する必要があります。
3. アクセス先のサーバとできるだけ遅延が少ないISPを現地で選択する
アクセス元、特に海外で ISPを選択する際に、事前にアクセス先への通信テストを実施することをおすすめします。もちろんインターネットのルートをコントロールすることは大変難しいのですが、少なくとも現時点の遅延は大まかに把握することが可能です。
また一番確実なのは、アクセスする側とされる側で同じISPを使うことです。そうすると、他のISPを経由することがないため、一定の品質を維持できることになります。
ただし、世界中で選択できるようなISPは実質的にはないので、この対応も実際には完全には難しいかもしれません。
4. CDN(コンテンツデリバリネットワーク)を活用する
こちらは主に社外システム向けサービスですが、Webサイトで世界的に情報を発信する会社などは、世界中にキャッシュサーバ(つまり分身のようなサーバ)を配置している会社のサービス(CDNサービス)を利用することで、自社のコンテンツのコピーを各地に設置できるようになります。
そうすると、アクセスする側からすれば、非常に近くにサーバが配置されていることになり、快適にアクセスすることが可能です。ここではあまり深入りしませんが、こういったものがあるということだけご理解ください。
5. WAN高速化装置を使う
こちらは主に社内システム向けソリューションですが、遅延という問題をうまく解決してくれるWAN高速化装置というソリューションがあります。
クライアントとサーバ間の無駄な通信のやり取りの中身を簡素化して、双方間の通信遅延をできるだけ削減して高速化する機器です。両端に機器を入れる必要がありますが、大手企業で海外向けに利用しているケースがあります。こちらもあまり深入りしませんが、こういったものがあるということだけご理解ください。
まとめ
ビジネスパーソンが知るべきネットワークの知識、特にインターネットにフォーカスして解説いたしました。
皆さんが何らかのシステムの責任者になった場合、このインターネットの課題、特に遅延品質についてはよくご理解いただくことで、最適なネットワークの選択ができると考えています。
また、この遅延問題は、○○Mbps といったインターネットの契約帯域とは直接関係がないこともご理解ください。太いインターネット回線に加入したから問題ない、ということでもありません。
クラウドサービスの利用で、サーバの品質がアップしても、ネットワークが遅いと使い物にならないことがあるので、同時によく検討することが必要です。
また、ここでは5Gに代表されるモバイル通信については触れておりませんが、また別の機会に解説したいと考えています。
この記事のまとめ
ネットワークには専用回線とインターネット回線があることを理解しましょう。
インターネット回線のルートや遅延品質をコントロールすることは難しいと理解しましょう。
ITシステム検討時は、サーバだけでなくネットワーク品質も考慮に入れましょう。